労務DD(労務監査)を重ねていると、実に様々なクラウド給与計算システムが存在していることを実感します。また、給与計算担当者であっても設定の詳細を把握しきれていない、あるいは後任の担当者も前任の設定ミスを見抜けていない、ということもよくあります。以下の例は典型的な「システムまかせ」であり、計算結果のイメージができていなかった事例です。
ある会社で定額残業代を導入しており、深夜勤務手当(0.25)・法定休日勤務手当(1.35)が発生した場合には、「別に計算して」支給することになっていました。しかし労務DDに入って確認してみると、深夜勤務手当と法定休日勤務手当が定額残業代に吸収され得るような、以下計算式が設定されており、実際には支払われていなかったことがわかりました。
【給与システム上で設定されていた計算式】
5万円を定額残業代として支給する-①
a 通常計算した残業代(+b 深夜勤務手当+c 法定休日勤務手当)の 合計が5万円を超えた場合には差額を支給する-②
【労務DDで確認された、上記計算式の設定によって起こっていた現象】
⇒ a 30,000円+b 4,000円+c 5,000円という計算結果が出た場合に、総額は39,000円ですから、5万円の中に aからc の手当が全て収まってしまうため、「別に計算して」支給されるはずの b・c の深夜勤務手当と法定休日勤務手当が支払われていませんでした。
計算結果のイメージができていれば、あるいは検算を行っていれば計算式の設定誤りに気付くことができ、修正できたはずが「設定しているのだから大丈夫だろう。」の感覚で数年間にわたって未払賃金が発生していた事例です。