労務DD(労務監査)を実施する際には、賃金支払状況等の分析のために賃金台帳を過去数年分ご提出いただいております。分析を進めていると、ある時期から新しい手当が支給され始めていることがよくあります。ここ数年で一番多く目にしてきたのが、コロナ渦における在宅勤務推進の流れを受けた「リモートワーク手当(在宅勤務手当・テレワーク手当)」です。しかし、ここでも未払残業代が発生しているケースが数多く見受けられました。
【ある従業員の前提条件】
月平均所定労働時間160時間:定額残業代30時間分:給与総額500,000円
【定額残業代の計算式】
{給与総額÷(160H+30H×1.25)}×30H
この従業員へ、新たに月額15,000円のリモートワーク手当を支給開始すると、30時間分の定額残業代は次のどちらになるでしょうか。
A 94,937円
B 97,785円
(※ 1円単位で支給するものとし、1円未満の端数は切上げています。)
正解はBです。なぜならば、月額15,000円のリモートワーク手当は、残業代の算定基礎額に含めなければならず、定額残業代の算出においても例外ではありません。単に月額15,000円のリモートワーク手当を支給し、定額残業代は以前のままとしているのがAとなります。給与総額はどちらも同じ515,000円なのですが、これも立派な残業代一部未払いとなるのです。
AとBの差額が2,848円ですから、同額の従業員が50名いたとして時効3年(36か月)分の未払残業代を計算してみると5,126,400円にのぼります。IPO審査に向けては、このような未払賃金は全て清算する必要があるため、今回例に挙げたリモートワーク手当に限らず、その他手当の新設にあたっては、特に注意しておきたいところです。