労務DDにおいて、「36協定」「フレックスタイム制に関する労使協定」「就業規則の意見聴取」など、様々な場面で登場する「従業員代表」の選出方法について、多くの企業で指摘事項となっています。
従業員代表とは
労働基準法では、労使協定の締結や就業規則の作成・変更の際に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者(従業員代表)と使用者との間で締結することが義務付けられています。
この従業員代表は、単なる「会社側が指名した人物」や「役職上の上位者」ではなく、適切な手続きで選出されなければなりません。
労務DDでの主な指摘事項
当法人が実施する労務DDにおいて、従業員代表に関して最も多い指摘事項は以下の点です。
1. 選出手続きの不備またはエビデンスの不足
「総務部長が自動的に従業員代表になっている」「特に選挙は行わず慣例で決めている」という企業が少なくありません。また、選出手続きを行ったとしても、その証拠となる書類(選出公示文書、投票用紙、集計結果など)が保管されていないケースも多く見られます。
2. 管理監督者を従業員代表に選出
管理監督者(労働基準法第41条第2号に該当する者)は従業員代表になることができません。しかし、「部長だから」という理由だけで選出されるケースが少なくありません。
3. 選出の範囲が不適切
事業場ごとに選出すべきところ、全社で一人だけ選出している、あるいは協定の対象範囲と選出母体が一致していないケースがあります。
適切な従業員代表の選出方法
リスクを回避するための適切な従業員代表の選出方法は以下の通りです。
1. 選出前の告知
何のために(〇〇労使協定を締結するため、就業規則を改定するためなど)従業員代表を選出するのかを明確にして、全従業員に対して事前に告知します。この際、立候補や推薦の方法、選出方法についても明示します。
2. 適格性の確認
労働基準法に規定する管理監督者ではないことを確認します。
3. 民主的な手続きによる選出
挙手、投票など、民主的な方法で選出します。
4. 記録の保管
選出過程を記録した書類(選出公示文書、投票用紙、集計結果、選出証明書など)を保管します。労働基準監督署の調査の際に提示を求められることがあります。
5. 任期の設定と再選出
任期を設定し(最長でも1年)、任期満了時や退職時には再選出の手続きを行います。従業員代表選出規程などを作成しておくことをお勧めします。
実際の指摘事例
ある企業では、長年にわたり総務部長が自動的に従業員代表となり36協定を締結していましたが、労務DDの結果、この選出方法が不適切であると指摘されました。改善後、適切な手続きで選出された従業員代表との間で36協定を再締結しましたが、過去の協定の有効性については懸念が残りました。
また別の企業では、部門ごとに従業員代表を選出していましたが、36協定は事業場単位で締結すべきところ、各部門の代表者が個別に締結していたため、協定自体の有効性が問題となりました。