お電話でお問い合わせ:03-6206-2320

Webによる無料相談/お問い合わせ

労務コンプライアンス

トピックス・事務所だより

カテゴリー

労働判例・裁判例

裁判例【地裁:狩野ジャパン事件】疾患未発症でも長時間労働を理由とする損害賠償請求が認められた例

<概要>
元従業員Xが、2年間にわたり毎月100時間以上残業したことで、精神的苦痛を被ったとして慰謝料等を求めた。裁判所は、会社は長時間労働で健康を損なわないよう安全配慮義務を負うと判断。心身の不調など疾患を発症していなくても、タイムカードの時刻から労働状況を改善指導すべきところこれを怠ったもので、未払割増賃金とともに慰謝料30万円の支払いを命じた。

<どのような会社であったか>
・36協定締結していない、無効な36協定を締結(推薦する者との協定・代表者選出を適正に行っていなかった)した上で、Xを2年余にわたり長時間の時間外労働(本件期間中2カ月は90時間以上、7カ月は150時間以上、その余は100時間以上)に従事させていた。
・タイムカードの打刻時刻から窺われるXの労働状況について注意を払い、Xの作業を確認し、改善指導を行うなどの措置を講じることもなかった。
・基本給のほか、『職務手当』が支給されていたが、その規程・契約書への明示 賃金規程・・・「職務手当は固定残業の一部として支給するものとする月額5,000~最高70,000円まで」
労働条件通知書・・・「職務手当のうち一部を残業代として支給する 金額27,000円」

<判決のポイント>
・Xが長時間労働により心身の不調を来したことを認めるに足りる医学的な証拠はない。しかし結果的にXが具体的な疾患を発症するに至らなかったとしても、会社は、安全配慮義務を怠り、2年余にわたり、原告を心身の不調を来す危険があるような長時間労働に従事させたのであるから、Xの人格的利益を侵害したものといえるとして、精神的苦痛に対する慰謝料は、30万円が相当とした。
・賃金規程や労働条件通知書にも固定残業代部分が何時間分の割増賃金に相当しているのか明示されておらず、職務手当のうち固定残業代部分が何時間分の割増賃金に相当するかが明示されたと認められる証拠は無い。 職務手当の支給をもって割増賃金の支払いとしての効力を認めることはできず、割増賃金の算定基礎から除外することはできない。

<実務上のポイント>
本件では、労務管理上特に注意すべき事項が、ことごとく表面化されました。判決では慰謝料が認められたことも注目ですが、未払割増賃金および付加金、遅延損害金計で400万超の支払い義務があるとされました。
長時間労働についての裁判所の姿勢は使用者側に極めて厳しく、労基法改正により残業規制は罰則規定を含め厳格化され、残業代の消滅時効も3年に延長されました。このような残業問題は、 今後も紛争が多発することが当然に予想されますので、規程の見直し・適正な協定の締結・労働時間管理・未払い残業対策等万全な対応が必要です。

カテゴリー

労働実務Q&A

緊急呼び出しに備えた自宅待機の時間は労働時間か

労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間のことを指します。労働者が抽象的に拘束されているに過ぎない場合は含まれません。例えば、所定休日に緊急の呼び出しに備えて携帯電話等を所持して自宅待機している場合に、結果的に呼び出しが行われず使用者の指揮命令が直接およばなかったのであれば、別段の合意がある場合を除き賃金・手当の支払い義務はありません。

自宅における待機時間につき、労働時間には当たらないとした裁判例
(高裁:奈良県(医師時間外手当)事件)
自主的に宅直当番を決め、宿日直の医師1名では対応が困難な場合に宅直医師が協力して診療を行う宅直制度について、医師が自主的に宅直勤務を申し合わせて定められたものであり、宅直当番に当たる医師の名前が使用者に報告されることは無かったこと、呼び出し回数は年6~7回と少ないこと、使用者が明示または黙示の業務命令を発したとは認められないとして、待機時間にかかる労働時間性を否定。

カテゴリー

労働判例・裁判例

裁判例【高裁:井関松山製造所事件】有期と無期の賞与・各手当の支給の相違と労働契約法第20条違反の有無

<賞与>
正社員・・・平均36~39万円を支給
契約社員・・・一律5万円の寸志を支給

<手当>
正社員・・・家族手当・住宅手当・精勤手当を支給
契約社員・・・支給なし

<判決のポイント>
賞与・・・合理性あり 長期雇用を前提とする正社員に対し、賞与の支給を手厚くすることにより有為な人材の獲得・定着を図ること、有期雇用労働者は負うべき職務責任の範囲が異なり、正社員への中途採用制度もあり地位が固定的ではない

手当・・・不合理
それぞれの手当の趣旨に沿った要件の下に明確な支給基準が賃金規程等で定められ、一定額が支給されるものであり賞与とは異なり、使用者に裁量がないことから人事政策上の配慮等の必要性は認められない

<実務上のポイント>
働き方が多様化する現代社員においては、例えば精勤手当については、フルタイムと短時間の間で、時間による按分を行うことは認められるのでないかと思われるので、各手当についての趣旨を細部について見直す。

裁判例 【地裁:学校法人近畿大学事件)】育児休業取得を理由とする昇給等未実施の不法行為該当性

<育児休業をした講師に対する昇給>
毎年4月の定期昇給につき、直近12ヶ月のうち育児休業期間が5ヶ月含まれていたため、昇給を実施しなかった。

<判決のポイント>
育介法10条に違反し、不法行為
定期昇給は在籍年数の経過により一律に実施されるものであり、年功賃金的な考えを原則としたものといえる。前の1年間のうち一部でも育児休業をした職員に対し、当該年度にかかる昇給の機会を一切与えないとすることは、定期昇給の趣旨と整合せず、「不利益な取り扱い」に該当する。

<実務上のポイント>
現に就労した労働者との差をどこまで許容されるかまでは明らかになっていないため、1年であれば、6ヶ月以上の出勤期間があれば、対象としておいた方が良いと思われる。

カテゴリー

労働実務Q&A

原則の退社時刻を過ぎた、持ち帰り残業に対する時間外手当等は、支払わなければならないか

自宅で行った仕事が使用者の指揮命令下のもとになされたかものか否かで判断します。三菱重工長崎造船所事件の最高裁判例では、「労働時間とは、使用者の指揮命令下におかれている時間」と定義されており、単に労働者が労務を提供する時間ということではありません。帰宅後の仕事については、例えば動画を見ながら、お酒を飲みながら行っているということもあり得ます。会社に出社した状態での勤務とも大きく異なり、 原則として労働基準法上の労働時間ではないと考えられるため、時間外手当、深夜勤務手当等を支払う義務はないと考えられます。

ただし、管理者が部下に対し、自宅で仕事を完成させてくるよう指示した場合や、携帯電話や電子メールで自宅にいる部下に対し、作業を指示しているといった事実関係があった場合には、指揮命令下にあるものと考えられ、労働時間と判断されるものと考えられますので、どのような経緯で行われた仕事なのかを確認する必要があります。

カテゴリー

労働実務Q&A

タイムカードの所定労働時間帯除く打刻は、すべて時間外労働か

必ずしもタイムカードの打刻時間をもって、その全てを労働時間として扱う必要はありません。厚生労働省:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日)においても、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として、労働時間を確認するよう述べているにとどまります。例えば、始業時刻が9時とされているときに、余裕をもって15分前に出勤することは通常ですので、使用者の指揮命令下に置かれて、業務を命令されていない限りは時間外労働時間とはいえません。なお、8時45分からの朝礼参加を義務付けていたり、フロアの清掃を義務付けているような場合は、15分間については時間外労働となりますので、計算していない場合は未払い残業代が発生します。始業時刻は所定時刻どおりとしつつ、終業時刻はタイムカードの打刻時間を採用するといった方法も考えられますので、ルール等具体的に検討しておく必要があります。

タイムカードによって実労働時間を認定しなかった裁判例
①(地裁:三好屋商店事件)
タイムカードの打刻時間が所定の労働時間の始業もしくは終業時刻より早かったり遅かったとしても、それが直ちに管理者の指揮命令の下にあったと事実上の推定をすることはできない

②(地裁:北陽電機事件)
被告におけるタイムカードも従業員の遅刻・欠勤を知る趣旨で設置されているものであり、従業員の労働時間を算定するために設置されたものではない(中略)同カードに打刻・記載された時刻をもって直ちに原告らの就労の始期・終期と認めることはできない

カテゴリー

労働実務Q&A

従業員の自主的居残りは残業時間か

一律に定めることはできませんが、自発的居残りか否か、その労働を行うことの業務上の必要性と使用者の認容意志が認められるかによりますので、惰性的環境が認められる場合は、ルールの再確認を行う必要があります。例えば、しばしば見受けられるケースで終業時刻を過ぎても社内で同僚同士会話を続けているといった場合には、まずはタイムカードを押させ、社外に出てもらうといった対策をとれば、労働時間管理・残業代支払いの観点からも安心といえます。

認める判例(地裁:とみた建設事件)
使用者の指示に基づかない場合には割増賃金の対象とならないと解すべきであるが、原告の業務が所定労働時間内に終了し得ず、残業が恒常的となっていたと認められるような場合には残業について被告の具体的指示がなくても、黙示の指示があったと解するべきである。

認めない判例(高裁:吉田興業事件)
就業開始時刻である午前8時より前に行った労働および公団職員の退庁後にしたものであっても翌日の就業開始後にすれば足りる後片付け等をした労働は、指示に基づくものとは認められず、自発的な行為

  • お電話でお問い合わせ:03-6206-2320
  • Webによる無料相談/お問い合わせ